■頭の中のイメージを絵にする■
■頭の中のイメージを絵にする■
ここでは、イメージというものについて考えたいと思います。
絵を描く時、あるいは教える時、慣れた人は「大体こんな感じ〜」と上手い絵をさらさら描き上げてしまいます。
絵を始めたばかりがそれを真似して「こんな感じ〜」と描いてみても、何か違うものが出来上がる。
何かと言うか、全然違う。
こんな経験もあるのではないでしょうか。
これはもちろん、手が「絵を描く」という行為に慣れてなくて、線がふらついたり、思ったようにライン取りが出来ないというのもあります。
しかし、それとは別に、絵描きに慣れてる人とそうでない人の間で「こんな感じ」の認識が大きくかけ離れているという原因が挙げられます。
また、描き慣れてる人同士が同じものを描くにしても、人それぞれに違ったものが出来上がります。
ここにも同様に認識の差が生まれています。
例えば、石ころやリンゴを "ただ漠然と" 描くとこんな感じです。
石ころは「小さくてでこぼこ、物によっては平たい」
リンゴは「丸くて赤い果物で、ヘタが付いている」
とりあえず、大雑把なイメージを文にするとこうなるのですが、このイメージで描くとこうなってしまいます。
まあ、落書きとか"あたり"で描くならこれくらいテキトーでもいいのですが、
ちゃんとした絵を描く時にイメージの段階でこれだと、完成後もこのまま質が上がりません。
仮に上のリンゴにさっきのイメージのまま色を塗ってみましょう。
「リンゴは赤い」わけですから、とりあえず赤で塗って、丸いから、とりあえず軽く陰影でも付けてこんな感じ。
でも、これは多分リンゴを描いたと分かるけど、ちゃんと真面目にリンゴを描いてる感じではないですよね。
ヘタの部分を短く描いてしまったサクランボにも見えるし、赤色の爆弾っぽくも見えます。
これは、絵を描く時に、描くものを具体的にイメージしてないからこうなってしまうわけです。
リンゴをよりリンゴらしく描くためには、より具体的なイメージが必要です。
そしてその具体的なイメージとは"描く前の段階"で構築されるものでもあります。
描きながらイメージが膨らむこともありますが、それもやはりそのイメージを固めてから絵に起こしているものです。
ここで、赤リンゴのイメージを具体的に文に起こしてみましょう。
リンゴは確かに丸いけど、てっぺんの部分と底の部分は凹んでいます。
また、実も上の方が膨らんでいて下は少しすぼんでいて、どちらかと言うと、丸まったピーマンのような形をしています。
大きさや形に個体差もあります。
ヘタには太さがあり、先の部分は少し膨らんでもいます。
色についても、ただ赤いというわけではなく、面に沿って黄色やオレンジの縦の筋がいくつも入っていて、細かい斑点もあります。
上の凹みの周りはカーブがきつく、その周辺には光沢が生まれます。
こんな感じで、リンゴとは具体的にどんなものかを脳内でイメージしておいて、そのイメージを念頭に置きながら絵を描くことで、
よりリアリティのあるリンゴが描かれていくわけです。
ちなみに、実はサクランボもリンゴと似たような形をしています。
さっき挙げたような、具体的なイメージを脳内で固めた上で私がリンゴを描くと、だいたいこんな感じになります。
多少雑ですが、さっきよりだいぶリンゴらしくなったのではないでしょうか。
実はこれは、描く前に実物のリンゴを観察して、その上で描いてもいるのですが、別に模写をしたわけではありません。
描く前に特徴を捉えて、その特徴を一旦言葉に置き換えて、リンゴというイメージを固めて、
それから絵にしたものです。
普通、漫画絵で物を描く場合は、模写や丸写しではなく、こういう風に特徴だけ掴んで描く場面が多いです。
ん、いや、どうだろ…。
全員が全員そうではないかもしれないけど、少なくとも私に関してはそうです。
本当に描き慣れた人なら、特徴がすでに頭に入っているのでしょう。
いずれにせよ、この"特徴を捉えて"、"イメージを固めて"がどの程度なのかで、絵の質が変わるのは確かです。
「じゃ、教えるときも"こんな感じ〜"じゃなく、そう言えよ!」
こう言いたくなる方も多いことでしょう。確かにそうです。
でもね、そんな説明をいちいちするのは面倒くさいんだ。
まあ、この辺、聞かれた側の心理を想像すれば分かるかと思います。
「こんな感じ〜」って描いた方が楽だし、説明に時間がかからないし、
それでサラサラと上手い絵が描けたら何か格好いいよね。
ちょっと本音が漏れたけど、ここではそういうわけにも行かないので、真面目に考察しますよ…。
まあ、教え方うんぬんはともかく、ここで一番言いたいのは、
「描く前にきっちりイメージを固めることって大事だよね!?」ってことです。
この認識を変えるだけでも、絵の上達速度は大きく違ってくるかと思います。